第四回:求める人財はいない

人が輝く日本流経営〜経営品質の視点から〜[文:大原 光秦]

 2011年に発表された経団連による統計「産業界の求める人材像と大学教育への期待」によると、企業が大卒採用時に重視する能力・態度は、①主体性②コミュニケーション能力③実行力④チームワーク・協調性⑤課題解決能力、となっている(数字は順位)。同時期に独立行政法人労働政策研究・研修機構が3000社余りからとった「重視する人材」アンケートでは、①指示に従うだけでなく自ら考えて行動できる ②チームを率いるリーダーシップ ③部下の指導や後継者の育成ができる ④職場でチームワークを尊重することができる ⑤事業戦略、事業展開を考えることができる、となっている。

 概観するだけでは気づきにくいが、求められる人材要件がこの10年で明らかに変化した。以前まではコミュニケーション能力を筆頭に、チームワークよく働く協調性や指示を全うする責任感など、機能的な働き方が求められていた。直近の統計では、そうしたことよりも固定観念に縛られることなく率先垂範し、組織を導く力、つまり自らが何を為すべきかその役割を自認し、能動的に変化を生み出していく能力が強く求められている。

 この統計結果から、日本経営の手詰まり感が読み取れる。学校教育がそうした能力開発を実現すべく設計されていない中で、これらの要件を満たす人財がこの国にどの程度いるだろうか。青い鳥とまでは言わなくとも、絶滅危惧種ほどに減少した有能者を奪い合うのか、それとも・・・。真の経営品質が問われ始めている。

 2002年に日本経営品質賞を受賞してから10年。受賞企業報告会で、「さらなる品質向上に取り組み、トリプルAを目指して再び挑戦します!」と、場の流れに乗って宣言したことが記憶に新しい。しかし、本音を言えばそのつもりはなかった。高知県でネッツ南国が一時的な隆盛を誇ったところで、いつまでそれが持続できるか・・・人口減少、高齢化が加速する地域の根本的な問題と向き合わない限りにおいては、消滅の一途を辿っていることは明らか、終末期医療の域を出ることにはならないということだ。

 私は、会社員としてネッツ南国で20年以上勤め、現在の社員の8割を採用してきた。その中で、学生だった頃の彼ら、彼女らに一貫して語り続けてきたことがある。それは「故郷で働き、地域に貢献し、親や伴侶、子どもを尊敬し、尊敬される生き様を世に広げていこう」という志だ。日本経営品質賞への挑戦は、その約束を守るためのものだった。受賞した際、ネッツ南国の取り組みを全国に伝えるべしとの使命がトロフィーと共に授与された。そしてその時に頂戴した受賞証書は私の講師免状だと解釈することにした。

 今、新たなる挑戦は地域の再生に向かっている。ネッツ南国で実証してきた採用、人財育成を一般組織に応用展開できるように形式知した。いくつかの組織で検証を重ね、効果性の認められた人財開発体系が構築できたところで、2010年にビスタワークス研究所をネッツ南国から分社化。県外組織の人財・組織開発、経営品質向上のお手伝いをすることで得た収益を元手に、高知県下全域の中学~大学生の能力開発、キャリア学習を無償支援している。同志は9名。容易ならざる挑戦ゆえに、皆が成長を余儀なくされている。