ビスタワークス研究所の志事(27) 文・大原 光秦

~知覧・万世・鹿屋を巡る~

 令和四年八月二十四日、稲盛和夫翁が逝去されました。日本國の内外において、人間として正しく生きることを語り、多大な影響を与え続けられた人生。哀悼の誠を捧げると共に、後世を生きる者として尽力して参る所存です。今回は翁の出生地、鹿児島で考えたことを綴ります。

和することが令ぜられた時代

 令和四年七月新盆、靖國神社みたままつりに参拝して参りました。偶然、東京でぽっかりと時間が空いたことにより参拝できたのですが、その一週前に安倍晋三元首相が銃弾に倒れた矢先、なにやら英霊達に誘われた感があります。終戦から七十七年目の夏。今日の日本を英霊達はどうお感じになっているのか、そんな対話をするひと時となりました。

 『令和』。かわら版第二〇号でこの元号が示唆するであろうことを書きました。

 先の戦いは、国際的孤立が進む過程で我が國の正統性を確認し、國家護持を目的とする組織力を生み出しました。さらに亜細亜における西洋の植民地支配を終結させることを志した大義は、二六〇〇年来の八紘為宇の義を貫く精神と結びつき、最前線にいる兵士達の闘志へと結実しました。(中略)戦争で散華した仲間の遺志を継いでこの國を再建し、誇れる國家にしようと頑張り抜いた人間たちの魂に注目することが大切です。それは、終戦の詔勅で表出された昭和天皇の命を具現化したものであり、下された神託です。

「終戦の詔勅」最後部分を抜粋(筆者による超意訳)
 國を挙げて一つの家となり、子孫と心通わせ、神の國である日本の不滅を固く信じなさい。
 それに至る私たちの使命は重く、また歩む道のりが遠いことを覚悟し、総力を将来の建設に傾けるのです。
 道義を重んじ、かねてからの志を強く保ち、一大家族國家としての忠孝の美徳を発揮することを誓い、世界の国々の進歩発展に後れることのないことを決意しよう。

 國民の皆さん、私が語ったことの真意を深く理解して、一人ひとりが行動を起こしてください

 令和とは、一大家族國家である「和」の再建に向かって國民が一致団結すべし、という命が「令」されたものだと理解すべきであると、私は考えます。

 令和が新たなる激動の世となることは幾度となく申し上げてきました。不肖の私とて、何が起きようとも動じておれぬ、という氣構えで中今を生きておりますが、巷は相も変わらぬ病原菌・お注射騒動・立て続く急逝の報せ。VUCAが極まりゆく時代を生きながら、いまだ眠りを貪る現代日本人。「和」どころではないようです。

國の為に戦いますか?

 「WIN―ギャラップ・インターナショナル」による世界価値観調査が話題になっています。「もし戦争が起こったら國のために戦うか」という設問に対する「はい」の回答は、世界79の國・地域のなかで、日本が13.2%と(ぶっちぎりの)最低だったと報告されたのです。一方、人口14億を擁するチャイナは約89%の国民が「戦う」氣構え。この認識の隔たりについては真剣に考えなければなりません。

 原爆投下、敗戦、GHQによるWGIP、東京裁判、平和憲法、戦後教育等々、日本人が戦争を忌避する原因はたくさん見つかります。しかしここで注目したいのは原因や結果ではなく、「わからない」という回答。その率38.1%、こちらも圧倒的な世界一です。何が「わからない」のか、とさらに聞けば・・・「もっと具体的な状況設定でないとイメージできません」「愛する人の為なら考えます」といった答えが戻ってくるだろうと想像はしますが・・・それは問題の本質ではないが故に解決の糸口にはならない。「日本という國」についての実感がないのでは?というところに問題を仮置きして考えてみます。
 皆さんは「國って何?」と聞かれたときにどう答えますか?

国家とは

 国家の要件について明文で規定した国際法、モンテビデオ条約第1条に次のようにあります。

【国家の要素】
・永久的住民(国民)が存在する
・明確な領域(領土、領海、領空)がある
・他国との関係をもつ能力を政府が有する(主権)

 国民、国土、主権。これは學校で教わる知識です。しかし、その知識だけでは「國の為に戦う」とはならない。その國に自らが戦うだけの価値を見出せているのか。その認識には、肉体的・精神的・心情的感覚を伴う体得的な學びが欠かせません。しかしこの國では、それは國粋主義、軍國主義の再来だと否定され、今日に至っているのです。

民族滅亡の三原則

 二〇世紀最大の歴史研究家、アーノルド・J・トインビーは、滅亡した文明には共通する特徴があったことを突き止めました。

1 理想を失った民族は滅びる
2 歴史を忘れた民族は滅びる
3 価値を物量でのみ捉えた民族は滅びる

 この三原則にこそ日本の現状を糺す示唆があると考えます。数多生起した世界文明の中で、唯一日本文明だけが風前の灯火ながらも滅してはいません。日清戦争、日露戦争を戦い、國家を護り抜いた日本。國軍を指揮していたのは幕末から維新後に生まれ、先人からの薫陶を受けた人間たちでした。それから三〇年余りの時が流れ、決意して立ち上がった大東亜戦争。多くは大正時代に生まれ、教育を受けた世代が指揮を執りました。すでに我が國の文化、教育は大きく変容していましたが、辛うじて三原則の充足までには至らず、國と家を結び付けることで肇國三千年の歴史に立つ八紘為宇の理想のもとに戦い抜きました。米国の圧倒的な物量の前に敗北を喫しましたが、大義を成したことは明らかです。

 國家を護るのは國民に他なりません。すなわち、永続する國家には先の三要素(國民・國土・主権)のみならず、

㊀ 求めてやまない國家的理想の共有
㊁ 祖國の歴史についての正しい共通認識
㊂ 真の倖 (幸福)を見出す豊かな教養

 この「三要件」がすべて満たされる必要があるのです。

 興亡のスパイラルに依存するゲームは人類滅亡まで続くでしょう。我が國はその闘技場から退出することを決意しましたが、その選択だけで肇國の精神に適う未来を引き寄せられるわけがありません。平和を愛する者の責務として三要件をよく確かめ、自らのものとする実践躬行が必要です。

 そしてそれは、取りも直さず「会社」や「家族」などの小組織にも同じことが言えます。皆が求めてやまぬ理想とは? 受け継いだ歴史や思い出は? 倖 とは?これらの三要件について深く話し合い、認識を共有することによってのみ、再起力を有した勁い組織となることが適います。
 旅の最終日に西郷南洲翁の墓所、神社、顕彰館に参りました。故稲盛翁が尊敬して止むことのなかった同郷、薩摩の大人。座右の銘、「敬天愛人」にこそ國家を護持する意が顕れているようです。出光佐三翁は、著書「日本人にかえれ」の中で、「組織は心の中にある」と記しました。人頭を集めて組織化を図る西洋人。一方、日本人は和する心をそれぞれが持つ故に自然と繋がるものなのだと。若き日に出光で學び、自らの経営で実践していた示道塾同志の平岡務氏が令和四年八月十九日に逝去しました。享年五十五歳。まだまだ旅の途中。暫しの休息の間、私たちが繋いで参ります。

 第十版を数えた示道塾は、いよいよ活発の度を増してきました。學習の旅のみならず、大和経営塾、互助共道隊など、愛する國、愛する人たちを護るための具体的な活動に移行しています。遠巻きにおられる皆さま、是非ご参画ください。

※「WIN-ギャラップ・インターナショナル」が実施する世界価値観調査:世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で國民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から始まり、1990年からは5年ごとの周期で行われている。(本部スイス・チューリヒ)
※「もし戦争が起こったら國のために戦うか」:正式な設問「もう二度と戦争はあってほしくないというのがわれわれすべての願いですが、もし仮にそういう事態になったら、あなたは進んでわが國のために戦いますか?」
※GHQ(General Headquarters):大東亜戦争後の終結に伴うポツダム宣言を執行するために日本で占領政策を実施した連合国軍機関である。
※ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(War Guilt Information Program):GHQが日本占領政策の一環として短期行った戦争についての罪悪感を日本人の心に植えつけるための宣伝計画。
※モンテビデオ条約: 1933年にウルグアイのモンテビデオで締結された「国家の権利及び義務に関する条約」の略称。アメリカ合衆国と大部分の中南米諸国が署名した。
※敬天愛人:「道は天地自然のものにして、人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。天は我も同一に愛し給ふゆえ、我を愛する心を以て人を愛する也」